「痩せて見せる下着」を「快適に体を包む服」と言い換えただけで、評価額は50億ドルになった。SKIMS(スキムズ)。2019年にキム・カーダシアンが立ち上げたこの米国ブランドは、世間では今も「補正下着ブランド」と紹介されるが、その説明はもう古い。恥の商品を誇りの商品に変える「言い換え」の発明こそが、このブランドの正体だ。
SKIMSは下着ではなく「言い換え」を売るブランドである
シェイプウェア(補正下着)は、長いあいだ「隠して買うもの」だった。体を締めつけ、あるべき形に矯正する。買うこと自体が「今の自分の体ではだめだ」と認める行為だったからだ。
SKIMSはこのカテゴリーの商品を、ほぼそのまま「ソリューション」「コンフォート」の言葉に載せ替えた。より細く見せる服ではなく、快適に自分の体を包む服。XXSから5Xまでのサイズと、9段階のヌードトーン(「ヌード=ベージュ」という白人基準を外した肌色展開)がその言葉を裏付ける。製品の物理的な機能はほぼ同じでも、買う側の感情はまったく別物になる。ファッションビジネスの歴史でも指折りの、言語による再発明だった。
キムの知名度「だけ」ではない|グレデ夫妻という実務
セレブブランドの多くが数年で消えるなか、SKIMSが例外でいられる理由は経営の座組にある。共同創業者のイェンス・グレデ(CEO)はファッションマーケティング出身のスウェーデン人実業家で、妻のエマ・グレデ(カーダシアン家のデニムブランドGood Americanの共同創業者でもある)が製品部門を率いる。キム・カーダシアンは看板であると同時に最大株主(約35%とされる)で、単なる「名前貸し」ではない。
2019年6月の発売初日、商品は10分で完売した。以後の伸びは数字が語る。売上は2022年に約5億ドル、2023年に約7.5億ドル。評価額は2022年に32億ドル、2023年に40億ドル、そして2025年11月、ゴールドマン・サックス主導の2.25億ドル調達で50億ドルに達した。
事業の広がりを整理する
| 領域 | 始まり | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| シェイプウェア/ラウンジ(本体) | 2019年 | 「言い換え」の本丸。ブランドの利益の土台 |
| FENDI × SKIMS | 2021年 | ラグジュアリーの側からの公認。コラボ即完売 |
| Team USA 公式アンダーウェア | 東京2020以降 | 五輪の米国代表チームに提供。機能性の公的な証明 |
| NBA/WNBAパートナーシップ | 2023年 | 公式アンダーウェアパートナーとしてメンズ市場へ橋をかけた |
| SKIMS メンズ | 2023年 | 男性版の展開。スポーツ選手を起用した広告で話題に |
| NikeSKIMS | 2025年9月 | Nikeとの共同ブランド。単独ラインではなく「新ブランド」扱い |

NikeSKIMS|ナイキが「借りに来た」2025年の事件
2025年9月26日にローンチしたNikeSKIMSは、単なるコラボではない。世界最大のスポーツブランドが、自社の女性向け事業の立て直しを一部SKIMSに賭けた、共同ブランドである。初回コレクションは58型、サイズはXXS〜4X。キャンペーンにはセリーナ・ウィリアムズ、シャカリ・リチャードソン、クロエ・キムら現役・レジェンドの女性アスリートが並んだ。
背景にあるのはLululemonやAlo Yogaに侵食されたナイキの女性市場だ。機能の会社が、感情の言語を持つ会社と組む。SKIMSの「言い換え」の力が、スポーツウェアの巨人にすら必要とされたことを示す出来事だった。発売は当初2025年春の予定が生産の問題で秋に延期されており、11月には第2弾が投入されている。年末には「ナイキはSKIMSを買収すべきでは」という観測記事まで出た。IPO(株式上場)の噂も含め、2026年のSKIMSはファッションビジネスの主要な観戦カードのひとつになっている。

in the vault=ここだけの話
SKIMSには、解けないねじれがひとつ残っている。ブランドは「どんな体もそのままで美しい」と語る。その創業者は、体型管理と美容医療の噂が絶えない、地上でもっとも「作り込まれた」身体の持ち主である。この矛盾を指摘する批評は多いが、売上は伸び続けている。
つまり買い手は、メッセージの真偽ではなく「言い換えの心地よさ」に金を払っている。恥だったものを誇りとして扱ってくれる場所なら、その言葉が広告であっても構わない。SKIMSの50億ドルは、この消費者心理の値段でもある。ボディポジティブの時代の本当の商品は、服ではなく「自分をどう感じさせてくれるか」だ。SKIMSはそれを誰よりも早く、正確に理解したブランドである。
まとめ
- SKIMSは2019年、キム・カーダシアンとイェンス・グレデ(CEO)が創業。「補正下着」を「コンフォートウェア」に言い換える再フレーミングで急成長した
- サイズXXS〜5Xと9段階のヌードトーンが、言葉だけでない実装としてブランドを支える
- 売上は2023年に約7.5億ドル、評価額は2025年11月に50億ドル(ゴールドマン・サックス主導の調達)
- 2025年9月、Nikeとの共同ブランド「NikeSKIMS」が始動。ナイキの女性市場立て直しを担う
- 「ボディポジティブ」と創業者自身の身体との矛盾は未解決のまま。それでも売れ続けていることこそが、このブランドの批評的な面白さである
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