Saint Laurent(サンローラン)とは何者か|ル・スモーキングからヴァカレロまで、女性解放の半世紀

Saint Laurent Brand

Saint Laurent(サンローラン)は、イヴ・サンローランが1961年にパリで設立したメゾンである。クリスチャン・ディオールの後継として史上最年少で主任デザイナーに就き、伝説となった後、独立して自身のブランドを立ち上げた。女性にパンツスーツを与え、透け感のある服で女性の身体解放を宣言し、世界で初めてプレタポルテ・ラインを本格的に展開した——イヴ・サンローランは20世紀のファッションを作った人物のひとりである。

しかし現在のSaint Laurentを語るとき、避けられない名前がある——エディ・スリマンとアンソニー・ヴァカレロである。この二人のクリエイティブ・ディレクターが、Saint Laurentを21世紀のアイコンへと変えた。

Saint Laurent(サンローラン)とは何者か

項目内容
ブランド名Saint Laurent(サンローラン)/ 正式名称 Yves Saint Laurent
設立1961年(パリ。初コレクション発表は1962年1月)
創業者イヴ・サンローラン、ピエール・ベルジェ
現クリエイティブ・ディレクターアンソニー・ヴァカレロ(2016年4月〜)
親会社ケリング(Kering)
本拠地パリ
象徴するアイテムル・スモーキング、サファリジャケット、モンドリアン・ドレス、シースルー
創業者の生没1936年(アルジェリア・オラン)〜2008年(パリ)

イヴ・サンローランは1936年、当時フランス領だったアルジェリアのオランに生まれた。1957年、クリスチャン・ディオールの急逝にともない、21歳でディオールの主任デザイナーに抜擢される。やがて独立し、パートナーのピエール・ベルジェとともに自身のメゾンを興した。それが今日まで続くSaint Laurentの始まりである。

Saint Laurent in Brief(English Summary)

Founded in Paris in 1961 by Yves Saint Laurent and Pierre Bergé, the house redrew the line between menswear and womenswear — most famously with Le Smoking, the 1966 tuxedo for women. After Saint Laurent’s retirement in 2002, the maison passed through Tom Ford and Stefano Pilati before Hedi Slimane (2012–2016) sharpened it into a lean, rock-driven silhouette and renamed the ready-to-wear line “Saint Laurent Paris.” Since 2016, Anthony Vaccarello has steered it toward a darker, more sensual modernity. The house, now part of Kering, remains one of fashion’s defining engines of power and seduction.

創業者イヴ・サンローランという存在

女性にパンツスーツを与え、シースルーで身体解放を宣言し、抽象絵画をドレスに着せた——イヴ・サンローランがやったことは、いずれも「服の常識を一段ずらす」行為だった。彼にとってファッションは装飾ではなく、女性が自らを解放するための道具である。その姿勢は、後に誰がメゾンを率いても消えなかった、Saint Laurentの背骨というべきものだ。

歴代クリエイティブ・ディレクターの変遷|誰が、何を変えたか

サンローランは創業者の引退後、性格の異なる才能が次々に引き継いできたメゾンである。それぞれが「何を持ち込み、何を削ったか」を並べると、ブランドの揺れと一貫性が見えてくる。

デザイナー在任何をしたか
創業者期イヴ・サンローラン1961〜2002ル・スモーキング、サファリ、モンドリアン。女性の服に「男性の語彙」と自由を持ち込んだ
トム・フォード期トム・フォード1999〜2004グッチ・グループ傘下入り後、官能性とグラマーを注入(主に既製服)
ステファノ・ピラーティ期ステファノ・ピラーティ2004〜2012イタリア的な構築美と仕立てで、創業者の遺産を端正に継いだ
エディ・スリマン期エディ・スリマン2012〜2016プレタポルテを「SAINT LAURENT PARIS」へ改める。ロックとスキニーで刷新
現行アンソニー・ヴァカレロ2016〜現在漆黒・深いスリット・強い肩。官能と構築を両立させる現在形

トム・フォードは、グッチで90年代のラグジュアリーを定義した後、グッチ・グループによるYSL買収を経てサンローランの既製服を率いた。その手腕については別の記事で詳しく扱っている。

Hedi Slimane期(2012〜2016):スキニーとロックの革命

2012年、エディ・スリマンがSaint Laurentのクリエイティブ・ディレクターに就任した。彼がまず行ったのは、プレタポルテ・ラインの名称を「SAINT LAURENT PARIS」へと改め、ロゴから創業者の名「Yves」を外すことだった。この大胆な引き算は賛否を巻き起こしたが、メゾンの正式名称そのものは今も「Yves Saint Laurent」のままである。略称としての「サンローラン」は、この時期に決定的に定着した。スリマンにとって、それは必要な切断だった。

スリマンのSaint Laurentは、ロック・ミュージックとスキニーシルエットを核にした。超細身のジーンズ、ビキーブーツ、バイカージャケット、スタッズ——1970年代のロックンロールのアーカイブを現代のラグジュアリーで再構築した。Courtney Love、The Rolling Stones、Lou Reed——これらのロック・アイコンのスタイルがSaint Laurentのランウェイに蘇った。

スリマンのSaint Laurentが証明したこと——「ラグジュアリーとロックは矛盾しない」。それどころか、ロックのアウトサイダー精神とラグジュアリーの排他性は、同じコインの表裏である。スリマンはその等式を服で示した。

Anthony Vaccarello期(2016〜現在):官能と構築

2016年4月、スリマンの後継としてベルギー出身のアンソニー・ヴァカレロが就任した。ヴァカレロのSaint Laurentはスリマンのロック美学を引き継ぎながら、より官能的でパワフルな女性像へと転換した。

深くスリットの入ったドレス、肩が強調されたジャケット、身体のラインを露わにするスパンコールのドレス——ヴァカレロはSaint Laurentに「力強い女性の官能性」を定義した。スリマンのロックが「反抗」の美学なら、ヴァカレロのSaint Laurentは「支配」の美学である。

代表アイテムとシグネチャー|サンローランを定義した服

サンローランの歴史は、いくつかの「事件」のような服に凝縮されている。それぞれが単なる名品ではなく、女性の装いの常識を一段ずらした物証として読める。

アイテム発表何を変えたか
ル・スモーキング(Le Smoking)1966年女性のためのタキシード。夜の正装に「男性の力」を許した最初の一着
モンドリアン・ドレス1965年抽象絵画を身体に着せ、モードとアートを接続した
サファリジャケット1968年探検服を都市の装いへ。実用と官能を同居させた
シースルー(透ける装い)1968年〜身体を「隠す/見せる」の境界そのものを問い直した
タキシード系ジャケット現在までヴァカレロ期の鋭い肩も、この語彙の延長線上にある

中でもル・スモーキングは別格である。1966年、夜会で女性がタキシードを着るという行為そのものがスキャンダルだった時代に、それを「エレガンスの最高形」へと反転させた。以後、サンローランにとってタキシードは半世紀以上にわたるシグネチャーであり続けている。

サンローランをはじめて買うなら|価格帯と最初の一着

価格帯の目安(時期・為替により変動する)。

  • 小物(カードケース・キーリング):3万〜6万円前後
  • 財布類:6万〜12万円前後
  • レザー小物・ポーチ:8万〜15万円前後
  • アイコンバッグ(Loulou、Kate など):25万〜40万円前後
  • レザージャケット・テーラードジャケット:40万円〜

最初の一点として選ばれることが多いのは、カッサンドル(YSLを組み合わせたメタルロゴ)をあしらった財布や小物である。ブランドの記号性を最小単位で持てる。バッグなら、キルティングとチェーンのLoulou、構築的なKateが定番として手に取りやすい。

ウェアから入るなら、ヴァカレロ期の象徴であるシャープなジャケットが「サンローランらしさ」を最も体感できる。購入は直営ブティック、公式オンライン、主要百貨店で。人気のアイコンバッグは二次流通も活発なため、買う場合は信頼できる店を選びたい。

イヴ・サンローランの遺産:女性解放としてのファッション

現代のSaint Laurentを語るとき、イヴのオリジナルの哲学を忘れてはならない。1966年の女性のためのタキシード「ル・スモーキング」——女性が男性のスーツを着ることは当時タブーだったが、イヴはそれをエレガントに正当化した。「ル・スモーキング」は今日のジェンダーレス・ファッションの源流である。

また1968年にはシースルーのブラウスを発表し、1971年には「リベレーション(解放)」コレクションで時代の政治的空気に応答した。イヴにとってファッションは常に「女性が自らを解放するための道具」だった。その哲学は、スリマンとヴァカレロがどれだけアーカイブを変えても、Saint Laurentの核に残り続ける。

VAULTが見るSaint Laurentの本質

Saint Laurentは「セクシャリティと権力の美学」を最も長く、最も深く探求してきたブランドである。イヴが1960年代に女性のパンツスーツで権力を服に宿らせ、スリマンが2010年代にロックで反抗を服に宿らせ、ヴァカレロが現在、官能で強さを服に宿らせている。

「自分が何者であるかを服で宣言する」——それがSaint Laurentの一貫したテーマである。ダーク・アバンギャルドを愛する者がSaint Laurentに惹かれる理由は、そのブランドが持つ「強さ」と「反抗」の記号にある。Saint Laurentを纏うことは、ある種のマニフェストである。

よくある質問

Q. 「Saint Laurent」と「Yves Saint Laurent(YSL)」は別物か?

同じメゾンである。正式名称は今も「Yves Saint Laurent」。2012年にエディ・スリマンがプレタポルテ・ラインの名称を「SAINT LAURENT PARIS」に変え、ロゴから「Yves」を外したため、現在は略して「サンローラン」と呼ばれることが多い。香水・コスメは今も「YSL」表記が中心である。

Q. ル・スモーキングとは?

1966年に発表された、女性のためのタキシードである。男性の夜の正装を女性に解放した象徴的な一着で、ブランドのシグネチャーとして現在まで受け継がれている。

Q. 現在のデザイナーは誰か?

ベルギー出身のアンソニー・ヴァカレロ(2016年4月就任)である。漆黒、深いスリット、強い肩線を軸に、サンローランの官能性を現代へと翻訳している。

Q. どこの国のブランドで、親会社はどこか?

フランス(パリ)のメゾンである。創業者イヴ・サンローランはアルジェリア(オラン)生まれ。現在はフランスのコングロマリットケリング(Kering)傘下にある(グッチなどと同グループ)。

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