ある服が「流行」として消費されるのではなく、ひとつの世界観として静かに支持され続けることがある。NEEDLES(ニードルス)は、まさにそうしたブランドである。トラックパンツに小さく刺された蝶の刺繍。ミリタリーやスポーツウェアを日本の編集眼で読み替える手つき。そのどれもが、流行を追わずに一貫してきたひとりの人物の眼差しから生まれている。日本のアパレル企業ネペンテス(Nepenthes)が擁するこのブランドを、創業者・ディレクターの仕事とともに辿っていきたい。
NEEDLES(ニードルス)とは?
NEEDLES(ニードルス)は、日本のアパレル企業ネペンテス(Nepenthes)が擁するオリジナルブランドである。ネペンテスは1988年、清水慶三(しみず・けいぞう/Keizo Shimizu)によって設立された。当初はアメリカの古着・ヴィンテージを日本に輸入する会社として出発し、やがて自社製の服づくりへと軸足を移していく。NEEDLESは、その流れのなかで1990年代後半に生まれた、清水自身のブランドである。
ブランド名の「NEEDLES(針)」は、服づくりのいちばん根っこにある「針と糸」を指している。それは、既製の流行をなぞるのではなく、布と縫いから服を立ち上げ直すという、このブランドの姿勢そのものを言い表した名でもある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ブランド名 | NEEDLES(ニードルス) |
| 設立 | 1990年代後半(前身〈HOGGS〉を経て改称) |
| 母体企業 | ネペンテス(Nepenthes/1988年設立) |
| ディレクター | 清水慶三(Keizo Shimizu) |
| 拠点 | 東京(南青山・原宿) |
| 象徴するアイテム | トラックパンツ/トラックジャケット(蝶=パピヨンの刺繍ロゴ)、モヘアカーディガン、リワーク(Rebuild by Needles) |
| 同じ母体のブランド | ENGINEERED GARMENTS(鈴木大器)、South2 West8、Workaday ほか |
NEEDLES in Brief(English Summary)
NEEDLES is the original label of NEPENTHES, the Japanese company founded in 1988 by Keizo Shimizu. Born from decades of vintage sourcing across America, the brand reworks military, sportswear and Americana through a distinctly Japanese editorial eye. Its butterfly-embroidered Track Pant — the logo drawn from Steve McQueen’s tattoo in the 1973 film Papillon — became one of the defining garments of late-2010s global street style, helped into the spotlight by a 2018 collaboration with A$AP Rocky’s AWGE. Quietly consistent and indifferent to trend cycles, NEEDLES treats clothing as something between costume, craft and found object.
創業と起源
NEEDLESの独自性は、ミリタリーウェア、アメリカのヴィンテージ、日本の職人技への敬意が、ほかのどのブランドとも異なるバランスで共存している点にある。その出発点には、輸入の仕事を通じてアメリカの服を見つめ続けてきた清水慶三の眼差しがある。
母体であるネペンテスは、当初はアメリカの既製服やヴィンテージを日本に紹介するセレクトショップとして機能していた。やがて「輸入する」だけでは手に入らないもの──見てきたものをもとに、日本でつくれる、簡素でありながらどこかひねりのある服──を求めて、自社での服づくりが始まる。NEEDLESは、その自社ブランドのひとつとして立ち上がった。
なお、NEEDLESには前身がある。当初は〈HOGGS〉という名で始まったが、商標上の問題からこれを畳むこととなり、その後継として〈NEEDLES〉が立ち上げられた。設立年がソースによって揺れる(1990年代後半とされる)のは、こうした改称の経緯によるものである。
ネペンテスと傘下ブランド|NEEDLESはどこに位置するのか
NEEDLESを理解するには、その母体である**ネペンテス(Nepenthes)を知る必要がある。ネペンテスは清水慶三が1988年に立ち上げた会社で、当初はアメリカの古着・既製服を日本に輸入する仕事から始まった。清水は買い付けのパートナーであった鈴木大器(すずき・だいき)**とともに全米を巡り、素材や工場、まだ知られていないブランドを探した。やがて「輸入する」から「自分たちでつくる」へと舵を切り、ネペンテスは複数の自社ブランドを抱える母体へと育っていく。
NEEDLESは、その最初期の自社ブランドのひとつである。清水が手がける一方、ニューヨークに渡った鈴木大器は**ENGINEERED GARMENTS(エンジニアド ガーメンツ)**を立ち上げた(1999年)。両者は「アメリカ的なるもの(Americana)」を日本の編集眼で読み替えるという点で通底しつつ、まったく別の人格を持つ。
| ブランド | 中心人物 | 位置づけ・特徴 |
|---|---|---|
| NEEDLES(ニードルス) | 清水慶三 | ネペンテスの顔。ミリタリー、スポーツウェア、Americanaを横断。トラックパンツとリワークが象徴 |
| ENGINEERED GARMENTS | 鈴木大器 | NY拠点。ワークウェア/ミリタリーを基調にした、左右非対称や素材ミックスの構築的なものづくり |
| South2 West8 | ― | フライフィッシング(テンカラ)に着想したアウトドア/テクニカル系ライン |
| Workaday | ― | USA製の定番ワークウェアの基本形を扱う、ENGINEERED GARMENTS派生ライン |
代表アイテムとシグネチャー
NEEDLESを語るうえで外せないのが、まずトラックパンツ/トラックジャケット(Track Pant / Track Jacket)である。サイドラインの入ったジャージ素材(ポリスムース)に、小さく蝶の刺繍が乗る。この蝶のロゴは、映画『パピヨン(Papillon)』(1973年)でスティーブ・マックイーンが胸に入れていた蝶のタトゥーに着想したものとされる。2010年代後半、このトラックパンツは「だらしなくない部屋着」「きれいめにもストリートにも振れる一本」として世界的に支持され、NEEDLESを一気に国際的な知名度へと押し上げた。とりわけ2018年、A$AP Rockyのクリエイティブ集団AWGEとのコラボレーション(ルックブックにRocky本人が登場)が、その熱量を決定づけた一件として知られる。
もうひとつの代表が、モヘアカーディガンに代表される起毛ニット類だ。レトロでどこか退廃的な色気をまとい、トラックパンツとは別の角度からNEEDLESの「映画的」な世界観を見せる。
そして忘れてはならないのが、リワーク(再構築)の仕事である。**Rebuild by Needles(リビルド・バイ・ニードルス)**は、古着やデッドストックを裁ち直し、縫い直して一点ものへと生まれ変わらせるライン。US ARMYのデッドストックを再裁断・再縫製するような手つきは、厳粛な再解釈というより、素材への愛着と楽しさから来ている。複数のネルシャツを切り継いだ「7カット・フランネル」のように、「もとは別の服だった」という記憶ごと一着に仕立てる仕事は、NEEDLESの編集的な本質をもっともよく表している。
NEEDLESをはじめて買うなら|価格帯と最初の一着
価格帯の目安は次のとおり(時期・為替・コラボにより変動する)。
- トラックパンツ:2万〜3万円台
- トラックジャケット:2万〜4万円台(上下セットで揃えると象徴性が増す)
- モヘアカーディガン:3万〜5万円前後
- Rebuild by Needles(一点もの):数万円〜。出会った時が買い時
- シャツ・ボトムスなど通常ライン:2万円台〜
最初の一着としてほぼ全員に薦められるのがトラックパンツである。サイズ展開・カラー展開が豊富で、スウェットより上品、スラックスより楽という絶妙な立ち位置にあり、手持ちのスニーカーやTシャツとそのまま噛み合う。上下で揃えれば「セットアップ」として、別々に使えば日常着として効く。蝶の刺繍という分かりやすい記号がありながら主張は静かで、NEEDLESの世界に最小単位で触れられる一本だ。
購入はネペンテス直営店(東京・南青山/原宿)、公式オンライン、国内外のセレクトショップなどから。人気カラーやコラボは即完しやすく、二次流通では蝶ロゴの刺繍の精度が真贋の手がかりになるため、信頼できる店を選びたい。
よくある質問
Q. NEEDLESはどこの国のブランド? 誰がつくっている?
日本のブランドである。母体企業ネペンテス(Nepenthes/1988年設立)が擁するオリジナルレーベルで、ディレクターは清水慶三(Keizo Shimizu)である。
Q. ネペンテスとNEEDLESは別物?
ネペンテスは清水慶三が率いる「母体(会社/ショップ)」、NEEDLESはその中の一ブランドである。同じ母体には、鈴木大器のENGINEERED GARMENTSなども属している。
Q. トラックパンツの蝶のマークは何?
蝶(パピヨン)の刺繍ロゴである。映画『パピヨン』(1973年)でスティーブ・マックイーンが入れていた蝶のタトゥーに着想したとされる。NEEDLESの象徴であり、真贋判定の手がかりにもなる。
Q. なぜ世界的に人気が出たの?
2010年代後半、トラックパンツが「楽なのにきれいめ」な一本として国際的に評価され、2018年のA$AP Rocky(AWGE)とのコラボがその人気を決定づけた。流行を追わない一貫した世界観が、結果として時代に見つかった格好である。
VAULTが見るNeedlesの本質
Needlesは「日本のファッション文化が到達した独自の美学」の最も純粋な形のひとつだ。アメリカのヴィンテージへの深い敬意と、日本の職人技への誠実さ、そして渡渉個人の「美しいと思うもの」への偏愛——これらが統合されたNeedlesは、マーケットトレンドとは無関係に一貫した世界観を持ち続けている。
バタフライ刺繍のトラックパンツを纏うことは、その哲学の全てへの共感の表明だ。VAULTがNeedlesを重要視するのは、その「静かな一貫性」が服を単なる商品の域を超えさせているからだ。




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