2015年1月:5日間で生まれた革命

2015年1月、アレッサンドロ・ミケーレはGucciのクリエイティブ・ディレクターに就任した。就任から5日後にメンズコレクションを発表しなければならなかった。前任者フリーダ・ジャンニーニのチームが用意していたコレクションを捨て、ミケーレは5日間でゼロからコレクションを作り上げた。
パリのメンズウィーク、そのコレクションを見た業界人の多くは言葉を失った。モスグリーンのベルベットのテーラードジャケット、刺繍の入ったシャツ、フラットなローファー——セクシュアルなフォードのGucciとも、クリーンなジャンニーニのGucciとも、何もかもが違った。
「これはGucciではない」と言った批評家もいた。しかし数シーズン後、Gucciの売上は倍増し、それまで見向きもしなかった若い世代がGucciを求め始めた。ミケーレは「Gucciではない」と言われたものを、Gucciの新たな定義にしてしまった。
マキシマリズムという哲学:「less」への反抗
ミケーレのGucciは「less is more」への反逆だった。2010年代前半、ファッション界はセリーヌをはじめとするミニマリズムの潮流に支配されていた。クリーンなライン、ニュートラルカラー、装飾の排除——それが「洗練」の証だった。
ミケーレはその「洗練」の概念を破壊した。刺繍、ビーズ、フリンジ、モチーフの重ね着——彼のコレクションは「多すぎる」が「ちょうどいい」の美学を体現した。このマキシマリズムは単なる趣味の問題ではなく、思想的な立場だ。「装飾は過剰であることで初めて意味を持つ」というミケーレの確信が、すべてのコレクションに貫かれていた。
ジェンダーの解体:服に性別は必要か
ミケーレのGucciが達成したもうひとつの革命は、ジェンダーの解体だ。男性モデルがボウタイを締め、フリルのシャツを着て、ヒールで歩く。女性モデルがスニーカーを履き、オーバーサイズのスーツを纏う。ミケーレはコレクションにおいて、男女の服を区別することをやめた。
これはマーケティング戦略ではなく、ミケーレ自身の信念から来ていた。「ジェンダーは衣服を着るための障壁であってはならない」——この確信がGucciの言語を変えた。2010年代後半にファッション界を席巻したジェンダーレスの流れを、ミケーレのGucciは先導した。
文化的折衷主義:すべての時代、すべての文化から
ミケーレのコレクションが持つ最大の特徴は、その文化的折衷性だ。70年代のフラワーチルドレン、ルネサンス絵画の天使、日本のアニメキャラクター、古代ギリシャ神話——これらが同じコレクション、時には同じルックに共存する。
この折衷性を「無秩序」と批判する声もあった。しかしミケーレにとって、それは「現代のアイデンティティ」の正確な反映だった。インターネット時代に生きる人間は、ひとつの文化的アイデンティティに縛られない。複数の時代と文化を同時に参照し、自分だけのミックスを作る——ミケーレのGucciはその感覚に完璧に応えた。
Dionysusバッグ、テニスシューズ:ミケーレ期のアイコン
Dionysus(ディオニュソス)バッグは、ミケーレ期Gucciの象徴だ。ギリシャ神話の酒神を模したタイガーヘッドのクラスプ(留め金)、刺繍のレザー、チェーンストラップ——「過剰さ」を美学にしたミケーレの思想がバッグというフォームに結晶した。
Gucci テニスシューズ(Ace)は、ミケーレが発掘したGucciの1980年代のアーカイブを現代に蘇らせたスニーカーだ。刺繍やワッペンを施したバリエーションが爆発的に広まり、「ラグジュアリースニーカー」というジャンルのGucciにおける象徴となった。
SNSとの共鳴:インターネット時代のラグジュアリー
ミケーレのGucciは、Instagram時代のラグジュアリーの形を定義した。装飾が多く色彩が豊かなコレクションは、写真映えが良い。モデルではなく個性的な「リアルピープル」を起用したキャンペーン、アーティストとのコラボレーション——これらは従来のラグジュアリー広告の文法を破り、SNSで有機的に拡散された。
Gucciのインスタグラムは単なる商品紹介ではなく、ひとつのアート・ディレクションとして機能した。ミケーレのビジョンはコレクションだけでなく、ブランドのデジタル上の表現すべてに浸透していた。
2022年退任:ひとつの時代の終焉
2022年11月、アレッサンドロ・ミケーレはGucciを退任した。公式声明は「創造的な方向性の違い」を理由としたが、Keringが売上の鈍化を懸念していたことは業界全体が知っていた。ミケーレ後期のGucciは「過剰すぎる」という批判も受けており、ブランドのリポジショニングが求められていた。
しかしミケーレが残したものは売上数字ではない——「ラグジュアリーはマキシマリズムでありうる」「服にジェンダーは不要だ」「折衷性こそが現代のアイデンティティだ」という、ファッションの文法そのものの更新だ。ミケーレのGucciは、ファッション史に確固たる足跡を刻んだ。


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