ゴープコアは、都会っぽく見せかけたアウトドア風の服のことではない。本物の登山用品やトレイルランニング用品を、山に行かない人がそのまま街で着るという、ノームコアの子孫にあたるジャンルだ。ゴアテックスのシェルジャケット、トレイルランニングシューズ、蛍光色のバックパック。もともと機能一辺倒で「ダサい」と見なされていた道具を、あえてそのまま着ることがステータスになっている。この記事を読み終えると、ゴープコアの語源から、テックウェアとの違い、なぜハイブランドがこぞって取り入れたのかまで説明できるようになる。
ゴープコアは「都会に見せかけた登山道具」ではなく「本物の登山道具をそのまま着る」ジャンルである
似たジャンルにテックウェアがあるが、出発点がまったく違う。テックウェアは都市生活者のために設計された機能服であり、最初から「街で着ること」が前提になっている。一方でゴープコアは、山や渓流で実際に使われている道具を、設計思想はそのままに街へ持ち込む。「都会用にアレンジされているか、本物をそのまま着ているか」が、この2つを見分ける最初の軸になる。
語源|2017年、ニューヨーク誌が名付けた「トレイルミックスの美学」
「gorpcore」という言葉は、2017年5月にニューヨーク・マガジンのファッションブログ「The Cut」で、ライターのジェイソン・チェンによって作られた造語だ。「gorp」はハイキング中に食べる行動食(レーズンやナッツを混ぜたトレイルミックス)を指す言葉で、そこに前年に流行していた「normcore(ノームコア)」を組み合わせて生まれた。
つまりゴープコアは、命名の時点からノームコアの延長として位置づけられていた。ノームコアが「量産品の普通の服を着る」ことでステータスを逆転させたように、ゴープコアは「機能一辺倒の登山道具を着る」ことで同じ逆転を狙っている。
なぜハイブランドに取り込まれたのか|2020年前後のランウェイ
2010年代後半から、実用的なアウトドアウェアのシルエットがランウェイに持ち込まれるようになった。ゴアテックスの素材感、ユーティリティポケット、オーバーサイズのシルエットといった要素が、2020年前後には複数のハイブランドのコレクションで見られるようになっている。
この文脈で象徴的なブランドが、カナダ発のArc’teryxだ。1989年に登山用のゴアテックスシェルの専門メーカーとして設立され、本格的な登山装備としての信頼を積み重ねてきた。この「本物である」という信頼こそが、モード側から見た価値になった。着飾るための服ではなく、命を守るために設計された服だという説得力は、デザインだけでは再現できない。
ゴープコアとテックウェアは何が違うのか
似ているようで、目指す方向がまったく逆の2つを並べる。
| 項目 | ゴープコア | テックウェア |
|---|---|---|
| 出発点 | 実際の登山・アウトドア用品 | 都市生活者向けに設計された機能服 |
| 色 | オレンジ・グリーンなど原色も歓迎 | ほぼ黒で統一 |
| シルエット | ゆったりした、登山本来のサイズ感 | フィットした洗練されたシルエット |
| 象徴ブランド | Arc’teryx、Salomon、The North Face | Stone Island、ACRONYM |
| 精神 | 「本物をそのまま着る」ノームコア的皮肉 | 「都会をサバイブする」ためのデザイン |
テックウェアについては当サイトの別記事で詳しく扱っている。両者は隣接するジャンルだが、混同すると見分け方を間違えるので、あわせて読んでおくと理解が早い。
ゴープコアを構成するブランドを分解する
代表的なブランドを一言で並べる。
| ブランド | 一言でいうと |
|---|---|
| Arc’teryx | ゴアテックス主体の本格山岳ギア。ゴープコアの信頼の中心 |
| Salomon | トレイルランニングシューズが火付け役。厚底の「XT-6」が象徴的な一足 |
| and wander | 日本発、イッセイミヤケ出身デザイナーによる「都市でも浮かない登山服」 |
| The North Face | 最も広く浸透した入門ブランド |
| Nike ACG | ナイキのオールコンディションギア専門ライン |
初めてゴープコアを取り入れるときの3つの失敗
- 全身を高機能ジャケットで固めすぎる: ゴープコアは普段着とのミックスが前提。全身を装備で固めると「登山者」そのものになってしまう
- 色を避けすぎる: 黒に寄せるとテックウェアに近づいてしまう。原色や蛍光色を恐れないのがゴープコアらしさ
- 見た目だけを真似て機能を無視する: 本来は「本物の道具」を着ることが核にある。防水も保温もしないレプリカを選ぶと、ジャンルの前提そのものが崩れる
in the vault=ここだけの話
ゴープコアのおもしろさは、皮肉の二重構造にある。もともと登山者やハイカーにとって、機能一辺倒のギアは「ダサい」と見なされがちだった。それを都市の人間があえて着ることで、逆にステータスになった。ここまではノームコアと同じ構造だ。
だが、もう一段皮肉がある。「ダサさを装う」ために選ばれる本物の登山道具は、実際には驚くほど高価だ。Arc’teryxの主力ジャケットは数万円から10万円を超えることも珍しくない。つまりゴープコアは「安っぽく見せる」ジャンルでありながら、中身は最も金がかかるジャンルの一つでもある。ノームコアが「量産品を着る余裕」を見せつける服だったとすれば、ゴープコアは「命を守る本物の道具を着る余裕」を見せつける服だ。ダサさを装うことにすら、値札が付いている。
まとめ
- ゴープコアは、都会向けにアレンジされた服ではなく、本物の登山・アウトドア用品をそのまま街で着るジャンル。2017年にニューヨーク・マガジンの「The Cut」がノームコアとの合成語として命名した
- Arc’teryxをはじめとする「本物である」という信頼が、2010年代後半以降ハイブランドに取り込まれる原動力になった
- 色も黒で統一するテックウェアとは対照的に、原色を歓迎し、ゆったりした本来のサイズ感を保つのがゴープコアの特徴
- 「ダサさを装う」行為そのものに高い値札が付いているのが、このジャンル最大の皮肉である