Salomon(サロモン)は、フランス・アヌシー発のアウトドアブランドだ。いまでこそ「おしゃれなトレイルシューズの代名詞」として知られるが、始まりはスキー板の金具でもウェアでもなく、ノコギリの刃を作る小さな金属加工の工房だった。機能のためだけに作られた道具が、70年後にパリのランウェイを歩く。その道のりを知ると、いま街でSalomonを履くことの意味が変わって見えてくる。

起源|ノコギリの刃、スキーの金具、そして世界一

1947年、フランソワ・サロモンが妻と息子とともにアヌシーで始めた工房は、当初ノコギリの刃を作っていた。転機はスキーだった。1957年にスキー板のエッジ(滑走面の金属部分)の生産を自動化し、続いてスキーブーツを固定するビンディング(締め具)の改良に乗り出す。1966年には世界アルペン選手権にSalomonのビンディングが登場し、1972年には世界最大のビンディングメーカーになった。

つまりSalomonは、半世紀にわたって「服」とも「靴」とも関係のない、命を預かる金具を作り続けた会社だった。1979年にスキーブーツ、1980年代にスキー板、そして1992年にようやくハイキングシューズへ。靴はブランドの歴史の中では「新参者」だが、金具づくりで培った「壊れたら人が死ぬ」という基準が、そのまま靴の設計に持ち込まれた。

XT-6|山のための靴が、街の靴になるまで

Salomonを語るうえで避けて通れないのが、XT-6というトレイルランニングシューズだ。2013年、エリートランナー向けの開発チームS/LABによって、長距離の過酷な山岳レースのために作られた。キリアン・ジョルネをはじめとする世界トップのランナーたちが実際にレースで履いた、正真正銘の競技用の道具である。

ところが2018年、SalomonはこのXT-6をファッション向けライン「Sportstyle」から復刻する。装飾のない流線型のシルエット、機能の塊のようなソール、素早く締められるクイックレース。「山で速く走るため」だけに引かれた線が、都市では未来的なデザインに見えた。ゴープコアの流れと重なり、XT-6はトレンドの中心に躍り出た。

このあたりの「本物の道具が街に降りてくる」構造は、同じくゴープコアの中心にいるArc’teryxとよく似ている。両者を並べて読むと、このジャンルの輪郭がつかみやすい。

哲学とデザイン言語|「速さ」がそのまま形になる

Salomonのデザインには、装飾のための線がほとんどない。特徴的な網目状のアッパー、ソールの深い溝、紐の代わりのワイヤー。すべて「山で速く、安全に動く」ための答えだ。

この点で、Salomonは都市のためにデザインされたテックウェアとは出発点が逆にある。テックウェアが「都市生活を機能的にする」ために設計されるのに対し、Salomonの靴は山のために設計されたものが、結果として都市で発見された。機能服の系譜の中でどちら側に立つブランドなのかは、見分けるうえで重要なポイントだ。

モードとの接続|ボリスから始まった橋渡し

Salomonがファッションの世界と本格的に交わるきっかけは、2016年、ダークファッションのデザイナー、ボリス・ビジャン・サベリのライン「11 by Boris Bidjan Saberi」とのコラボレーションだった。以降、2022年にはMM6 Maison Margielaとの協業(Cross Low / Cross High)が始まり、COMME des GARÇONSとのコラボモデルも登場している。

注目すべきは、Salomonと組む相手がスポーツブランドではなく、モードの、それもダークサイドのデザイナーたちだという点だ。機能の極致とモードの前衛は、一見遠いようで、「装飾を削ぎ落とす」という一点で握手できる。Salomonはその握手が最も自然に成立するブランドの一つになっている。

代表的なモデルと選び方

モデル一言でいうと
XT-6象徴。迷ったらこれ。細身のパンツともワイドパンツとも合う
Speedcross深い溝のソールが特徴。よりゴツく、アウトドア色が強い
ACS Proより未来的なシルエット。テック寄りの着こなし向け
Cross Low(MM6)モード側から入りたい人向けのコラボモデル

初めての一足ならXT-6が定番だ。競技用由来のフィット感のため、普段のスニーカーより0.5cm大きめを選ぶ人が多い。可能なら試着をすすめる。

in the vault=ここだけの話

Salomonの面白さは、ファッションになろうとした瞬間が一度もないことだ。ノコギリの刃も、ビンディングも、XT-6も、すべて「道具」として作られた。街で流行った後も、Salomonは山岳レースの現場から離れていない。いまもトップランナーたちは競技でSalomonを履いている。

「本物の道具であり続けること」は、ファッションブランドには真似できない参入障壁だ。デザインは模倣できても、70年分の「壊れたら人が死ぬ」という基準は模倣できない。街でXT-6を履くことは、その基準ごと足元に載せることでもある。ゴープコアというトレンドが仮に終わっても、道具としてのSalomonは何も失わない。流行に乗っているのに、流行に依存していない。これがSalomonの一番強いところだ。

よくある質問

Q. XT-6はどこで買える?
A. 国内ではSalomon直営店・公式オンラインのほか、スニーカーショップやセレクトショップで扱いがある。人気カラーは品切れも多い。

Q. 山で使えるモデルと街用モデルは違う?
A. Sportstyleラインは街向けの位置づけだが、XT-6自体はトレイルランニング由来の機能をほぼ保っている。本格的な登山には現行の競技・登山向けラインを選ぶのが確実だ。

Q. サイズ感は?
A. 競技由来の細身フィット。普段より0.5cm上を目安に、できれば試着を。

まとめ

  • Salomonは1947年、フランス・アヌシーのノコギリの刃の工房から始まり、1972年に世界最大のスキービンディングメーカーになった「金具の名門」である
  • 靴への参入は1992年と歴史の中では新しく、2013年のXT-6が2018年の復刻を経てゴープコアの象徴になった
  • 2016年のボリス・ビジャン・サベリとの協業以降、MM6やCOMME des GARÇONSなど、モードのダークサイドとの接続が続いている
  • 「本物の競技用の道具であり続けること」こそが、流行が終わっても揺らがないSalomon最大の強みである