ダウンが暖かいのは、羽毛そのものが熱を出しているからではない。羽毛が抱え込んだ空気が、熱を逃がさないからである。つまりダウンジャケットの正体は「空気を着ている」に近い。

この一点がわかると、商品説明に並ぶ「700フィルパワー」「ダウン90%/フェザー10%」といった数字が、急に意味を持ちはじめる。どれも「どれだけ空気を抱えられるか」を表した数字だからだ。今回は、あの数字の読み方と、買う時にどこを見ればいいのかをVAULTより貴方へ伝授する。

ダウンが暖かい仕組み|抱えた空気が熱を逃がさない

ダウンボールとフェザーの構造の違いと、フィルパワーによる膨らみの差を示した図解

ダウンとは、水鳥の胸あたりに生えている綿毛のことである。中心の核から羽枝が放射状に広がった、たんぽぽの綿毛のような立体をしている。これが集まると、羽枝と羽枝の間に大量の空気が閉じ込められる。

空気は熱を伝えにくい。だから体と外気の間に空気の層が厚くあるほど、体温は外に逃げにくくなる。ダウンの仕事は「発熱」ではなく「空気の層を作ること」だ。

ここを押さえておくと、この後の話がすべて同じ理屈で説明できる。暖かさを決めるのは、どれだけ厚い空気の層を作れるかである。

ダウンとフェザーは別物である

商品表示でよく見る「ダウン90%/フェザー10%」。この2つは同じ羽毛だが、形がまったく違う。

ダウンフェザー
正体水鳥の綿毛。軸がない軸のある羽根
形球状に羽枝が広がる平たい羽根の形
空気大量に抱え込む抱える量は少なめ
役割保温の主役弾力を出し、ダウンの偏りを防ぐ

ダウンの比率が高いほど保温性は上がる。ではダウン100%が最強かというと、そうでもない。柔らかすぎて形が崩れやすくなるため、フェザーを混ぜて構造を支えるという考え方がある。製品ではダウン80%/フェザー20%あたりの配合が多く見られる。

フェザーは「混ぜ物」ではなく、役割が違う部品である。この理解があるだけで、表示の見え方が変わるのではないだろうか。

フィルパワーの読み方|「質」であって「暖かさ」ではない

ダウン選びで最もよく見かけ、最も誤解されているのがこの数字だ。

フィルパワー(FP)とは、羽毛のかさ高さ、つまり膨らむ力を示す数値である。羽毛1オンス(28.4g)をシリンダーに入れ、一定の重さをかけた時に何立方インチまで膨らむかを測る。650FPなら、1オンスの羽毛が650立方インチに膨らむという意味だ。

数字が大きいほど、同じ重さでより厚い空気の層を作れる。つまり軽くて暖かいということになる。

目安は情報源によって差があるが、おおむね次のように語られる。

フィルパワー一般的な評価
500以下低品質とされ、保温性も低め
600〜700台良質。冬の防寒として十分
700以上高品質
800〜900台登山用などの高性能品

ただし、ここが肝心なところである。フィルパワーが高い=その製品が暖かい、ではない。

暖かさは「質(フィルパワー)× 量(充填量)」で決まる。どれだけ良い羽毛でも、入っている量が少なければ空気の層は薄いままだ。800FPを少量だけ入れたジャケットより、650FPをたっぷり入れたジャケットのほうが暖かい、ということは普通に起こる。

やっかいなのは、充填量を明記していない製品が少なくないことだ。フィルパワーだけが大きく書かれていて量の記載がない場合、数字だけでは比較できないと考えたほうがいい。

ダウンの弱点|濡れると、ただの重い布になる

ダウンには明確な弱点がある。水である。

水分を含むとダウンボールの立体構造が潰れ、羽枝の間の空気が失われる。空気の層が消えれば、保温材としての役割は果たせない。しかも一度濡れたダウンは簡単には乾かない。雨だけでなく、行動中の汗の湿気でも同じことが起こる。

ここから、化繊中綿との使い分けが見えてくる。

ダウン化繊中綿
軽さと保温効率同じ重さなら高い同じ保温量を得るには重くかさばる
濡れた時保温力が大きく落ちる落ちにくい
手入れ乾きが遅く手間がかかる洗濯が手軽
価格高め比較的安価

乾いた寒さに強いのがダウン、濡れに強いのが化繊。街の冬にはダウン、雨や汗が避けられない場面では化繊、というのが大まかな整理になる。近年は撥水加工を施したダウンや、性能を上げた化繊中綿も増えており、この境界は少しずつ動いている。

買う前に確かめたい3つのこと

  1. ダウンとフェザーの比率。 ダウンの比率が高いほど保温の主役が多い。80%以上が一つの目安になる
  2. フィルパワーと充填量をセットで見る。 片方しか書かれていないなら、それは比較材料として不完全である
  3. 使う場面が乾いているか、濡れるか。 濡れる可能性が高いなら、ダウンより化繊や撥水ダウンを検討する

よくある3つの失敗

  • フィルパワーだけで選ぶ。 数字が大きくても充填量が少なければ暖かくない
  • 濡らしたまま放置する。 潰れた状態で乾かすと、膨らみが戻らなくなることがある
  • 圧縮したまま長期保管する。 ダウンの価値は膨らむ力にある。潰した状態で何ヶ月も置くと、その力が落ちる

よくある質問

Q. グースとダックはどちらが良いのか?
A. 一般的にはグース(ガチョウ)のほうがダウンボールが大きく、高いフィルパワーが出やすいとされる。ただし製品の良し悪しは羽毛の等級や充填量、縫製でも変わるため、鳥の種類だけで決まるものではない。

Q. ダウンは洗えるのか?
A. 洗える製品もあるが、必ず洗濯表示に従うこと。乾燥が不十分だと中で固まり、膨らみが戻らなくなる。心配ならクリーニングに出すほうが安全だ。

Q. 収納する時の注意点は?
A. 圧縮袋に入れたまま長期保管しないこと。風通しの良い場所に、ゆったりと吊るすか畳んで置くのが望ましい。

Q. 「ダウン率」とフィルパワーは何が違うのか?
A. ダウン率は中わたに占めるダウンの割合、つまり「量の質」を示す。フィルパワーは羽毛自体の膨らむ力、つまり「羽毛の質」を示す。別の指標なので両方を見るとよい。

in the vault=ここだけの話

ダウンジャケットを「空気を着る服」と考えると、この服の価値がどこにあるかがはっきりする。買っているのは羽毛ではなく、羽毛が抱えている空気のほうなのだ。

そう考えると、手入れの意味も変わってくる。圧縮したまま置かない、濡らしたら乾かす、定期的に空気を含ませる。どれも「膨らむ力を守る」ための行為である。ダウンの寿命とは、生地が破れるまでの時間ではなく、膨らむ力が失われるまでの時間だと言ってもいい。

そしてこれは、前に書いたニットの話とまったく同じ構造をしている。セーターが暖かいのも、ループとループの間に空気を抱えているからだった。暖かい服とは、空気をうまく捕まえている服のことである。素材が違っても、人が寒さに対して出してきた答えは、驚くほど一貫している。

まとめ

  • ダウンが暖かいのは羽毛が発熱するからではなく、抱え込んだ空気が熱を逃がさないからである
  • ダウン(軸のない綿毛)とフェザー(軸のある羽根)は役割が違う。フェザーは混ぜ物ではなく、形を支える部品である
  • フィルパワーは「羽毛の質」を示す数値。暖かさは「質 × 量(充填量)」で決まるため、フィルパワーだけでは製品を比較できない
  • 弱点は水。濡れると潰れて空気の層が消える。濡れる場面では化繊中綿や撥水ダウンを検討するとよい