ウォッシュ加工とは、直訳通り「洗うこと」である。もう少し正確に言えば、売る前にすでに洗ってあるということだ。

シャツが欲しい。オンラインストアで服を漁る。画像上ではほとんど違いのわからないシャツが、様々なブランドでヒット。何が違うのかと商品詳細を開くと、「ウォッシュ加工」の文字・・・

『ウォッシュ=洗う』当たり前と言えば当たり前の話ではある。だがここで大切にしたいのは「服なんて着たら洗うのに何故販売時にすでに洗ってあるのか」ということである。その議題の先に「加工」の本質と、そう仕上げるべき意味が見えてくる。今回はよく見るあの単語について、VAULTより貴方へここだけの徹底伝授をする。

ウォッシュ加工とは何か|洗うと、服の中で何が起きているか

生地には製造の過程で糊剤や樹脂が付いている。縫い上がった製品を自動洗浄機にかけ、50〜80度のお湯で熱処理すると、それらが落ちて生地は柔らかくなる。同時に、生地はここで縮む。つまり「先に縮ませてしまう」のがこの工程の正体である。

この最も素朴な洗いが「ワンウォッシュ」と呼ばれるものだ。ここから先、石を入れたり酵素を使ったり漂白剤を足したりすることで、洗いは「加工」へと枝分かれしていく。

ウォッシュ加工の需要と効果|カジュアルに求めるのは「リラックス」である

「需要」の部分は、「風合い」や「着心地」というキーワードに着地するだろう。ウォッシュ加工は服にとって必要なものではないのだ。

この加工に一番馴染みのある服のカテゴリーと言えば「デニム」だと思う人が大半ではないだろうか。そして「洗われたデニム」と言えば色が薄く、何となく柔かい。言ってしまえばウォッシュ加工とはそれまでのことだ。なくても服として成立するようなものだ。でも「そう仕上げた方が心地良い」からウォッシュ加工があり、それが「需要」だ。

服にもフォーマルからカジュアルまで様々ある。フォーマルには綺麗な生地が不可欠。ではカジュアルに求めるものは何だろうか。VAULTでは「リラックス」こそ求めたい要素だと考える。

フォーマルのような綺麗な生地は汚さないようにと気を遣う。洗うというよりクリーニングだろう。綺麗に気を遣わなくていい「風合い」。もうすでに洗ってある「安心感」。着飾るよりも動きやすい「着心地」。それらこそがカジュアルであり、リラックス。

この3つは、そのまま買う側の実利に置き換えられる。

感覚実利
風合い糊が落ちて、買ったその日から柔らかい
安心感先に縮ませてあるので、試着したサイズのまま着続けられる
着心地気を遣わずに着られる、動ける

中でも二つめは見落とされやすいが大きい。洗っていない服は、家で初めて洗った時に縮む。先に洗ってあるということは、その事故が起きないということだ。

そしてそれらはそのまま「効果」の部分にもつながる。「生地が洗ってある服」を着ている人を見ればカジュアルだと感じる視覚的効果。カジュアルな休日を過ごす際に「相応しい」「リラックスできる」と思わせる心理的効果。需要が主観なら効果は客観にあたるだろう。

人や自身をリラックスさせ、シーンや環境に馴染ませること。これがウォッシュ加工の役割であり、需要であり効果である。とVAULTでは考える。

もちろん、「デザインのため」でもある。

ウォッシュ加工の種類6つ|仕組みは3つしかない

「洗うこと」とは書いたが、その洗い方にも種類があり特徴も異なるため奥はかなり深い。代表的な6つを挙げる。

種類何で洗うか仕上がり
ワンウォッシュお湯(水洗い)販売時点で生地を縮ませサイズをわかりやすくする効果。柔らかくもなる。色はほぼ落ちない
ストーンウォッシュ軽石、セラミック、角ゴムなど物理的な摩擦を追加。一定数使用したような表情に仕上がる
バイオウォッシュセルラーゼという酵素酵素で表面を分解。より柔らかく、均一でマットな仕上がり。石を使わない分、生地が傷みにくい
ブリーチ漂白剤(酸化剤・還元剤)色が強く抜け、デザインとして加工がわかりやすい。酸化剤なら澄んだ青み、還元剤ならくすんだ青み
ケミカルウォッシュ漂白剤に浸した軽石石の当たった所だけ強く脱色され、霜降り状のムラが出る。80sに近い仕上がり
サンドウォッシュ砂などの細かい研磨剤ストーンウォッシュより細かい粒で洗う。柔らかく細かい色落ちに仕上がる

一見バラバラに見えるこの表には、見通しを良くする軸が一本通っている。洗いの仕組みは「お湯だけ」「物理的に削る」「化学的に分解・脱色する」の3つしかないのだ。ワンウォッシュはお湯だけ。ストーンとサンドは削る。バイオ・ブリーチ・ケミカルは化学の力を借りる。

ケミカルウォッシュがあの独特のムラを出すのは、「漂白剤を染み込ませた石」を使うからである。削る力と脱色する力が同時にかかり、石の当たった所だけが強く白く抜ける。欧米ではアシッドウォッシュ、スノーウォッシュとも呼ばれ、日本では1980年代に大流行した。あの表情に見覚えがあるなら、それはこの仕組みの結果だ。

なおワンウォッシュは、他の加工の下地としても使われる。色を抜く前に、まず糊を落としておくという使い方である。

ヒゲ・ハチノス・ユーズド加工|「時間」の仕事を「技術」が肩代わりする

洗い以外にも、「時間が経った状態」を作る加工がある。ジーンズやシャツの関節部にシワを加える「ユーズド加工」や、穴や破れを加える「ダメージ加工」がそれだ。中でも商品説明でよく見かけるのが、「ヒゲ」と「ハチノス」という二つの言葉だろう。

用語どこに出るか何を再現しているか
ヒゲ前の股の付け根座った時にできるシワに沿った、ヒゲ状の色落ち
ハチノス(ハニカム)膝の裏膝を曲げた跡の、蜂の巣のような色落ち

どちらも本来は、何年も履き込んだ人の体の動きが生地に刻まれた跡である。それを工場で先回りして作っている。つまりユーズド加工やダメージ加工とは、本来「時間」が担当していた仕事を「技術」が肩代わりしたものだと言える。

ここは好みの分かれるところでもある。自分で育てた色落ちにこそ価値があると考える人には、最初から入っている加工は物足りない。逆に、履き込む時間をかけずに完成した表情が欲しい人には合理的だ。どちらが正しいという話ではない。ただ貴方がどちらを買いたいのかだけは、先に決めておいたほうがいい。

「リジッド」と書いてあったら注意|洗っていないデニムのサイズ選び

買い物で最も失敗しやすいのがここである。

「リジッド」(生デニム、ノンウォッシュとも呼ぶ)とは、一度も洗っていない状態の製品のことだ。ウォッシュ加工のちょうど対極にあたる。糊が効いてパリッとしており、色は濃い。履き込んで自分だけの色落ちを作りたい人に選ばれるものである。

問題は、最初の洗濯で大きく縮むことだ。

どのくらい縮むかは、ブランド、生地、そして防縮加工(サンフォライズド加工)の有無によって変わる。情報源によって「ウエスト2〜4cm、股下5〜8cm」「ウエスト3cm前後、レングスは最大5cm以上」など数字に幅があり、公式に統一された数値は存在しない。ただし「丈の縮みが特に大きい」という点だけは、どの情報源も一致している。

  • ワンウォッシュの製品は、試着したサイズで買ってよい。 すでに縮みが済んでいるため、以降の変化は小さい
  • リジッドの製品は、試着のサイズ感で買ってはいけない。 縮む前提で選ぶ必要がある
  • リジッドを買うなら、そのブランドが公表している縮み率を確認するか、店頭で直接聞く。 ネット上の一般論ではなく、その製品の数字を当たるのが唯一確実な方法である

初めてデニムを買うなら、サイズの読めるワンウォッシュが無難だ。育てる楽しみを取るのなら、サイズ確認の手間はセットで付いてくると思っておくといい。

買う前に確かめたい3つのこと

  1. 洗ってあるか、洗っていないか。 ウォッシュ加工かリジッドか。サイズ選びがここで分岐する
  2. どの洗い方か。 ワンウォッシュなら色は濃いまま、ストーンやブリーチなら色が抜けている。商品画像と加工名が一致しているかを見る
  3. ユーズドやダメージが入っているか。 穴や色の抜けが「仕様」なのか「不良」なのか、説明文で区別がつくかを確かめる

よくある3つの失敗

  • リジッドを試着サイズで買う。 洗ったら着られなくなる、最も多い失敗である。特に丈が足りなくなる
  • ダメージ加工品を普通に洗う。 穴やほつれは洗濯で確実に広がる。裏返す、ネットに入れる、弱水流にするなど、普通の服より気を遣う必要がある
  • 「ウォッシュ加工=色落ちしない」と思い込む。 洗ってあるのは縮みと糊の話であって、色移りがなくなるわけではない。濃色のデニムは最初の数回、単独で洗うほうが安全だ

よくある質問

Q. ウォッシュ加工されていれば、もう縮まないのか?
A. ほぼ縮まないが、完全にゼロではない。2回目の洗濯で多少縮むという指摘もある。高温の乾燥機は縮みを進めるため避けるのが無難だ。

Q. ウォッシュ加工はデニムだけのものか?
A. いや、デニムに多く見られる加工だが、実はどのカテゴリーにも多く存在している。色褪せた生地のTシャツ、着古した風合いのシャツ、あえて毛羽立っているスウェット、など。

Q. 加工された服は品質が低いということか?
A. 違う。加工は工程が1つ増えるということであり、むしろコストはかかる。ただし強い加工ほど生地に負担がかかるため、加工の強さと耐久性は反比例する傾向にある。

Q. 自分で家でウォッシュ加工はできるか?
A. ワンウォッシュに近いこと(水通し)なら家庭でもできる。だがストーンウォッシュやブリーチは専用の設備と薬品を使う工程であり、家庭で再現すると生地を傷めたり、色ムラが事故になったりする。おすすめはしない。

in the vault=ここだけの話

デニムの色落ち加工には「サンドブラスト」という手法がある。研磨剤を高圧で吹き付けて生地を削り、履き込んだような表情を一瞬で作る技術だ。速く、安く、狙った位置に色を抜ける。

問題は、吹き付ける研磨剤に珪砂(シリカ)が使われていたことだった。粉じんを吸い込み続けた労働者が、珪肺という深刻な肺の病気にかかる事例が相次いだ。2009年、トルコで換気の悪い室内での作業による死亡例が問題となり、同国はこの加工を禁止している。その後Levi’sやH&Mといったブランドが使用禁止を表明し、ISOも珪砂の使用を退け、日本でも2016年のJIS規格変更から除外された。ただしこれらに法的な罰則はない。そして今も、規制のない国では安く速いという理由で使われ続けているとされる。

我々がリラックスのために選んでいる「使い込まれた風合い」は、誰かの時間の代わりに、誰かの労働で作られている。

もちろんウォッシュ加工そのものを避けるべきだという話ではない。酵素を使うバイオウォッシュのように、負担の少ない方向へ移っていく流れも確かにある。ただ、タグに書かれた「加工」の二文字の向こう側に工程があり、人がいる。それを知っているかどうかで、服の見え方は少し変わるのではないだろうか。

まとめ

巷でよく見かけるようになった「ウォッシュ加工」の文字にも、様々な意図や目的がある。「洗うこと」の中にも「洗い方」があり、「洗う意味」がある。

  • ウォッシュ加工とは「売る前に洗ってある」こと。風合い・安心感・着心地、そして試着したサイズのまま着続けられるという実利がある
  • 洗いの仕組みは「お湯だけ」「削る」「化学的に分解・脱色する」の3つ。6種類はこの組み合わせで整理できる
  • ヒゲ、ハチノス、ユーズド、ダメージは、本来「時間」が担当していた仕事を「技術」が肩代わりしたもの
  • 「リジッド」は未洗いの意味。試着サイズで買うと洗濯後に着られなくなる。 買うならそのブランドの縮み率を必ず確認すること

「ファッションの進歩」と「技術の進歩」が切り離せないように、その一例こそが今回の内容である。

この記事を読み終えたらぜひ、貴方の良く見るオンラインストアを覗いてみてほしい。きっと、これまでとは違う情報がそこに書かれているはずだ。