ヨルシカのライブで、ステージ奥に立ってベースを弾いていた男が、いま自分の名前でNHK紅白のセンターに立っている。キタニタツヤ(本名・木谷竜也)は1996年2月28日生まれ、東京都杉並区出身のシンガーソングライター。『呪術廻戦』のオープニング「青のすみか」で名前を知った人が多いはずだが、その手前に長い助走がある。ボカロP「こんにちは谷田さん」として、そしてヨルシカのサポートベーシストとして、10年近く「誰かの音楽」を支える側にいた人である。
キタニタツヤは「歌う人」である前に「設計する人」である
キタニタツヤの経歴は、フロントマンの経歴ではない。中学でベースを始め、バンドではボーカルの後ろに立ち、2014年からはボカロP「こんにちは谷田さん」名義で初音ミクの曲(「鯨と水星」など)をニコニコ動画に投稿した。ヨルシカのライブではサポートベーシストとして、他人の世界観を低音から支えた。
つまり彼は、歌声より先に「曲の仕組み」で音楽と付き合ってきた人間だ。ベースラインの設計、打ち込みの構築、他人の声のための作曲。キタニタツヤの楽曲が、キャッチーなサビの裏で妙に複雑な和声とビートを鳴らしているのは、この裏方の10年がそのまま楽器になっているからである。
東大の美学科で「なぜ美しいのか」を勉強していた
経歴でもうひとつ目を引くのが学歴だ。都立西高校から東京大学に現役合格し、文学部で美学芸術学を専攻した。「東大卒ミュージシャン」という消費されやすいラベルより面白いのは、専攻の中身のほうだ。美学とは、ざっくり言えば「人はなぜあるものを美しいと感じるのか」を理屈で考える学問である。
死、孤独、承認欲求。キタニタツヤの歌詞はこうした重いテーマを扱うが、感情の垂れ流しにはならない。暗さが常に構造の中に置かれ、聴き手が安全に触れられる形に整えられている。「美しさを設計する」訓練を受けた人の手つきが、歌詞にも通っている。
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「青のすみか」まで|タイアップ3段跳びの記録
転機は段階的に来た。整理すると次のようになる。
| 年 | 作品 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 2014年 | 「鯨と水星」(こんにちは谷田さん名義) | ボカロPとしての出発点。ニコニコ動画に投稿 |
| 2021年 | 「聖者の行進」 | ソロ名義初のタイアップ(アニメ『平穏世代の韋駄天達』OP) |
| 2023年 | 「青のすみか」 | 『呪術廻戦』懐玉・玉折のOP。ストリーミングを席巻し、同年の第74回NHK紅白歌合戦に初出場 |
| 2024年 | アルバム『BIPOLAR』/EP『スカー』 | 「スカー」は『BLEACH 千年血戦篇』OP。少年ジャンプ二大アニメのOPを続けて担った |
| 2025年〜 | 初のアリーナツアー、全国ホールツアー | ライブアーティストとしての規模が一段上がった |
「青のすみか」は『呪術廻戦』の過去編(五条悟と夏油傑の、戻れない青春)のために書かれた曲で、透明なメロディに喪失の歌詞を重ねる構成がアニメの文脈と噛み合い、キタニタツヤの名前を一気に全国区へ押し上げた。大晦日の紅白では『呪術廻戦』の特別編集映像を背に歌い、「五条悟の紅白デビュー」としても話題になった。
現在地|2026年、自身最大のアリーナツアーへ
2025年に初のアリーナ公演と16都市17公演のホールツアーを走り切り、2026年7月には自身最大規模となるアリーナツアー「DEKAI / PURE」の開催が発表された。タイアップで見つかったリスナーを、自分のライブの観客に変えていく。「借りた注目を返しに行く」フェーズに入っている。
in the vault=ここだけの話
キタニタツヤを「アニソンの人」と呼ぶのは、半分だけ正しい。彼のタイアップ曲は、作品に寄り添いながら、よく聴くと必ず本人の主題(失うこと、それでも続くこと)に戻ってくる。作品の注文と自分の実存を一枚の曲で両立させる器用さは、ボカロPとサポートベーシストという「他人のために書く」修行の賜物だ。
ヨルシカの後ろでベースを弾いていた人が、いま一番大きな会場の真ん中に立とうとしている。裏方の履歴書を持ったフロントマンは、J-POPでは意外なほど少ない。そこがキタニタツヤの一番の個性である。
まとめ
- キタニタツヤは1996年生まれ、東京都杉並区出身。東京大学文学部で美学芸術学を専攻した
- ボカロP「こんにちは谷田さん」(2014年〜)とヨルシカのサポートベーシストという「裏方の10年」が音楽の土台
- 「聖者の行進」(2021)→「青のすみか」(2023・呪術廻戦OP・紅白初出場)→「スカー」(2024・BLEACH OP)とタイアップを階段状に駆け上がった
- 2026年7月、自身最大規模のアリーナツアー「DEKAI / PURE」開催が発表。タイアップの人からライブの人への転換点にいる