気候不安、パンデミック、格差拡大、常時接続の疲労。世界の暗さをそのまま服にまとう若者たちがいる。Z世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)のダークファッションは、しかし「暗い時代への降伏」ではない。「暗さを自分の側に引き取る」ための実践だ。世界の暗さを無かったことにするのではなく、着ることで飼いならす。この記事では、その中身と理由を4つの系統から読み解く。

いま「ダーク」と呼ばれているものの中身

ひとくちにダークファッションと言っても、Z世代の黒には系統がある。整理するとおおむね次の4つだ。

系統 見た目 気分の中身
ゴス/ネオゴス 黒レース、シルバー、プラットフォームブーツ 80年代ポストパンク由来の伝統様式を、TikTok経由で「再学習」したもの
オピウム系 黒のモノクローム、極端なシルエット、重いブーツ Playboi Carti発。ラップとアヴァンギャルドモードの合流点
ダーク・アカデミア チェックのブレザー、ウールコート、古書と図書館のムード 「知性」を美学化した独自系統。勉強や読書そのものがコンテンツになる
テック系ダーク 黒いシェル、機能素材、ストラップ 備えの美学。都市の不確実性への装備として

共通するのは、どれも音楽サブカルチャーの「所属」ではなく、SNSの「アエステティック(美学)」として広まったことだ。かつてゴスであることはコミュニティへの帰属だったが、いまの黒はPinterestのボードから選ばれる。入口が軽くなったぶん、移動も自由になった。

Cultureオピウムファッションとは?|Playboi Carti発、Z世代の「黒ずくめ」スタイルの正体READ MORE

なぜ暗さが支持されるのか|3つの実利

「時代が暗いから服も暗い」という説明は半分しか当たっていない。黒い服には、この世代にとって具体的な効用がある。

  • 感情の正直さ。明るさを演じることが同調圧力になった時代(「クリーンガール」的な無菌の完璧さへの疲労)に、暗さはむしろ誠実さの表明として機能する
  • 画面の上での強さ。黒とシルエットの服は、写真一枚で成立する。ロゴや色に頼らない「構図の強さ」は、フィードで戦う世代の実用スペックだ
  • 消費への防御。黒は流行り廃りが遅く、古着でも成立する。トレンドの回転が速すぎる時代に、ダークファッションは「降りる」ための装いでもある

先行世代との違い|黒の「使い方」が変わった

黒い服の思想には系譜がある。80年代、山本耀司と川久保玲は黒で「西洋的な美の型」への異議を示した。90年代のゴスは黒で共同体を作った。リック・オウエンスは黒に崇高さを与えた。

Z世代の黒は、それらの遺産を全部アーカイブとして参照できる位置にいる。ただし使い方は違う。先行世代の黒が「何かへの反抗」だったのに対し、Z世代の黒は「自分の状態の表明」に近い。敵がいるのではなく、守るべき自分の輪郭がある。反抗の黒から、セルフケアの黒へ。この変化が、この世代のダークファッションを先行するどの黒とも違うものにしている。

BrandYohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)とは?|「黒の衝撃」から44年、消去法の黒が世界標準になるまでREAD MORE

in the vault=ここだけの話

ダークファッションを着る若者に「病んでいるのか」と聞くのは、たぶん一番外れた読み方だ。実際は逆で、暗さを着られる人は、暗さを言語化できている人である。不安を服という形に出せることは、抱え込むことより何段か健康に近い。

そしてもうひとつ。各時代の黒(耀司の黒、ゴスの黒、オウエンスの黒、オピウムの黒)は、いつも「時代が明るさを強要してくる」ときに濃くなってきた。Z世代の黒が濃いのは、彼らに向けられる「ポジティブであれ」「発信せよ」「自分らしくあれ」という命令が、史上もっとも大きいからだ。黒い服は、その騒音に対する消音材である。

まとめ

  • Z世代のダークファッションは「暗さへの降伏」ではなく「暗さを自分の側に引き取る」実践。ゴス/オピウム系/ダーク・アカデミア/テック系の4系統に整理できる
  • 広まり方の特徴は、音楽サブカルチャーへの所属ではなくSNSのアエステティックとしての選択であること
  • 効用は3つ。感情の正直さ、画面上での構図の強さ、速すぎる消費からの防御
  • 先行世代の「反抗の黒」に対し、Z世代の黒は「自分の輪郭を守る黒」。ポジティブの強要が大きい時代ほど、黒は濃くなる