1枚のTシャツは、畑に咲いた綿花から始まる。そこから「繊維を集める→糸にする→布にする→染める→裁って縫う」という5つの工程を通って、ようやく服の形になる。この流れを一度通しで見ておくと、値札の数字も、タグに書かれた「綿100%」も、店頭で触った生地の手触りも、すべて同じ地図の上に置けるようになる。この記事を読み終えると、服が高い理由と安い理由を、工程の言葉で説明できるようになる。

全体像|綿花がTシャツになるまでの5つの工程

まず地図を頭に入れる。細かい話は後から埋めればいい。

工程何をするか決まること
1. 繊維綿花を摘む、羊の毛を刈る、石油から作る素材そのものの性質(吸水性、保温性など)
2. 紡績繊維の塊を引き伸ばし、撚って糸にする糸の太さと均一さ(=生地の上質さ)
3. 製織・製編糸を交差させる、またはループにして布にする伸びるか伸びないか、ハリがあるか
4. 染色糸または布に色をつける色落ちの仕方、風合い
5. 裁断・縫製型紙に沿って裁ち、立体に縫い上げるシルエット、着心地、耐久性

重要なのは、それぞれの工程で「もう戻れない決定」がなされているということだ。細い糸を使うと決めたら、その後どれだけ丁寧に縫っても、太い糸の生地の風合いにはならない。服の質は最後の縫製だけで決まるのではなく、5つの工程すべての積み重ねで決まる。

工程1と2|繊維を集め、撚って糸にする

最初の工程は、素材そのものを用意することだ。綿花を摘む、羊の毛を刈る、あるいは石油や木材パルプから化学繊維を作る。ここで選んだ素材が、その服の基本的な性格を決める。

次が紡績(ぼうせき)だ。ここが一番わかりにくく、そして一番おもしろい。摘んだばかりの綿は、ゴミや葉くずが混ざった綿毛の塊にすぎない。これを1本の長い糸にするために、5つの段階を踏む。

段階読み方何をするか
混打綿こんだめんゴミや短い綿をざっくり取り除き、綿の塊をシート状にする
梳綿そめん(カーディング)繊維を1本ずつ分離して平行に引き揃え、細かいゴミと短い繊維を除去。紐状の「スライバー」にする
練条れんじょうスライバーを6〜8本重ね合わせて引き伸ばし、太さのムラをならす
粗紡そぼうスライバーをさらに細くして「粗糸」にする
精紡せいぼう撚りをかけながら引き伸ばし、強度のある糸に仕上げる

工程の中身を一言でまとめると、「短い繊維をひたすら平行に揃え、細くしながら撚りをかける」作業の繰り返しだ。撚る(ねじる)ことで繊維同士が摩擦で絡み合い、引っ張っても切れない1本の糸になる。糸の太さ(番手)が最終的に決まるのは、最後の精紡の工程になる。

「番手」と「双糸」の読み方

生地の説明でよく見る数字が番手(ばんて)だ。綿の場合、重さ1ポンド(約453g)で840ヤード(約768m)の長さになる糸が「1番手」と定められている。同じ重さでより長く伸ばせる、つまり細い糸ほど数字が大きくなる。番手の数字が大きい=糸が細いと覚えておけばいい。細い糸で織った生地はなめらかで上質になるが、そのぶん技術も手間もかかる。

もう一つが単糸(たんし)と双糸(そうし)だ。紡績したままの1本が単糸、2本の単糸を撚り合わせたものが双糸になる。双糸は撚り合わせるぶん強度が増し、太さのムラも減るため、なめらかな手触りになる。そのかわり高価だ。「60/2」のような表記は、60番手の糸を2本撚った双糸を意味している。この数字を読めるようになると、生地の説明書きが情報として機能しはじめる。

工程3|糸が布になる(織りと編み)

出来上がった糸を布にする方法は2つしかない。タテ糸とヨコ糸を直角に交差させる織り(ウーブン)と、1本の糸をループ状につなげていく編み(ニット)だ。

シャツやデニムは織り、Tシャツやスウェットは編み。この違いが、伸びるか伸びないか、ハリがあるか柔らかいかを決めている。同じ糸を使っても、織るか編むかでまったく別の服になる。

https://inthevault.xyz/knit-vs-woven

工程4|どの段階で色をつけるか(先染めと後染め)

意外と知られていないのが、色をつけるタイミングが工程のどこにあるかで、服の表情が変わるということだ。染色には主に3つのタイミングがある。

呼び方いつ染めるか特徴
先染め(さきぞめ)布を織る前、糸の段階で染める整った印象になる。ストライプやチェックなど、色で柄を作れる
後染め(あとぞめ)布を織った後に染める低コストで、1色あたりの生産量も少なくて済む。カジュアルで柔らかい印象
製品染め服に縫い上げた後に染めるコストは高いが、少量生産に向く。独特の色ムラが出る

デニムがわかりやすい例だ。一般的なデニムはタテ糸だけをインディゴで染め、ヨコ糸は白いまま織られる(先染め)。だから履き込むと表面のインディゴが落ちて、下の白い糸が現れる。あの色落ちは、染色の工程がどこにあったかの記録でもある。

工程5|裁断と縫製、布が立体になる

最後の工程で、平らな布が立体になる。ここで使われるのがパターン(型紙)だ。人間の体は複雑な曲面でできているので、平面の布を体に沿わせるには、計算された形に裁つ必要がある。

流れとしては、企画を立て、パターンを引き、それを各サイズに展開し、布を裁断し、部品ごとに縫い合わせ、検品して仕上げる。ブランドごとに同じ「Mサイズ」でも着心地が違うのは、このパターンの設計思想が違うからだ。

縫製の質は、外からでもある程度わかる。縫い目の間隔が細かく揃っているか、生地の柄が縫い目でつながっているか、といった点が手がかりになる。

全工程を知ると、値段とタグの見え方が変わる

ここまでの5工程を通しで見ると、服の値段がどこで積み上がるかが見えてくる。

  • 細い糸を使うほど、紡績の手間と技術が要る(番手の大きい生地は高い)
  • 双糸にすると、単糸より工程が1つ増える
  • 先染めにすると、色ごとに糸を用意する必要があり、後染めよりコストが上がる
  • パターンを丁寧に作り込むほど、設計と修正に時間がかかる
  • 縫製の工程数を増やすほど、人件費が積み上がる

つまり高い服の値段は、「ブランド料」だけで説明できるものではない。どの工程で手を抜かなかったかの合計が値段になっている。もちろん、工程と無関係に値段が決まる部分もある。その構造については別記事で詳しく扱っている。

よくある質問

Q. どの工程が一番値段に効きますか?
A. 一概には言えませんが、糸の細さ(番手)と縫製の工程数は、値段に直結しやすい部分です。生地の説明に番手が明記されている服は、そこに自信があると考えていいでしょう。

Q. 「Made in Japan」は工程のどこを指しますか?
A. 一般的には最終的な縫製が行われた国を指します。糸の紡績や生地の製造が別の国という場合もあるため、表示だけですべての工程を判断することはできません。

Q. 洗ったら縮んだのは、どの工程が原因ですか?
A. 素材(工程1)と生地の作り方(工程3)の両方が関係します。ウールは繊維の表面構造が原因で縮み、編みの生地は構造上、織りより寸法が変化しやすくなります。

Q. 工程の知識は、店頭でどう役立ちますか?
A. 生地の説明書きを読めるようになるのが一番大きいです。「40番手 単糸 天竺」と書いてあれば、やや太めの糸をそのまま使ったざっくりしたTシャツ生地だと想像がつきます。

in the vault=ここだけの話

服の工程をたどっていくと、ひとつのことに気づく。すべての工程が「繊維をまっすぐ揃える」ことに費やされているということだ。

綿花から摘んだ繊維は、方向もばらばらの塊にすぎない。混打綿でゴミを除き、梳綿で1本ずつに分離して平行に並べ、練条で重ねてムラをならし、粗紡と精紡で細く撚る。この一連の作業は、ひたすら「ばらばらのものを、同じ方向に揃える」という一点に向かっている。

そして織りも編みも、揃えた糸を規則的に交差させるかループにするかの違いでしかない。服作りとは、自然が作った不揃いなものを、人間が扱える秩序に変換していく作業の連続なのだ。値段の差は、その秩序をどこまで精密にしたかの差でもある。番手の大きい生地が高いのは、より細く、よりムラなく揃えるのが難しいからだ。

タグに書かれた数字を読むというのは、その服がどこまで秩序を追い求めたかを読むことでもある。そう思うと、店頭で生地に触れる時間が少し変わってくる。

まとめ

  • 服は「繊維を集める→糸にする→布にする→染める→裁って縫う」の5工程でできている。それぞれの工程で、後から変えられない決定がなされている
  • 紡績は「混打綿→梳綿→練条→粗紡→精紡」の5段階。短い繊維を平行に揃え、細くしながら撚りをかけて1本の糸にする
  • 番手は糸の太さの単位で、数字が大きいほど細い。2本の単糸を撚った双糸は、なめらかで強いがコストが上がる
  • 色をつけるタイミングにも先染め・後染め・製品染めがあり、デニムの色落ちは先染めという工程の記録である
  • 高い服の値段は、どの工程で手を抜かなかったかの合計として積み上がっている