オールドマネーは、金持ちが着ている服のことではない。金持ちに見えたい人のための「衣装」として、2021年ごろのTikTokで生まれた言葉だ。テニスセーター、ツイードのジャケット、キャメル色のコート。世襲の資産家が実際に着ている服というより、ジャッキー・ケネディや『ゴシップガール』が描いてきた「上流階級らしさ」のイメージを、再現可能なアイテムに翻訳したものに近い。この記事を読み終えると、オールドマネーの成り立ちから、混同されやすい「クワイエット・ラグジュアリー」との違いまで説明できるようになる。

オールドマネーは「金持ちの服」ではなく「金持ちに見せたい人のための衣装」である

本物の世襲資産家、いわゆる「オールドマネー」の家庭に生まれた人たちは、自分たちのことをオールドマネーとは呼ばない。この言葉を使うのは、もっぱらそう見られたい側の人間だ。呼び名自体が、当事者ではなく憧れる側から生まれているという構造は、以前扱った「モード系」という言葉の成り立ちともよく似ている。

2021年、TikTokでの誕生|ジャッキー・ケネディと『ゴシップガール』

「オールドマネー」を着こなす動画がTikTokに現れ始めたのは2021年ごろで、2022年に入って一気に注目を集めた。初期の発信者の一人が2021年8月にこの着こなしを投稿したことがきっかけとされている。インスピレーション元として繰り返し挙げられるのは、ジャクリーン・ケネディやダイアナ元妃、ドラマ『ゴシップガール』に登場する上流階級の学生たちだ。派手さではなく、時代を超えた質の良さと控えめさを重視する、という説明が付けられている。

「クワイエット・ラグジュアリー」との違い|似ているようで別物

オールドマネーとしばしば混同される言葉に「クワイエット・ラグジュアリー」がある。こちらは2023年、HBOドラマ『サクセッション』の登場人物たちの服装や、ある女優の裁判での服装が話題になったことから広まった。ロゴを避け、上質な無地の服で富を誇示しない、という美学を指す言葉だ。

両者の違いは、誰の視点から語られているかにある。オールドマネーは「憧れる側」が過去の上流階級の記号(テニス、乗馬、ツイード)を再現する言葉であり、クワイエット・ラグジュアリーは「実際に金を持つ側」がそれを隠すための言葉として語られてきた。似た服が使われることはあっても、出発点が逆だ。この違いについては、当サイトで別途詳しく扱う予定にしている。

オールドマネーの記号を分解する

見た目の要素を整理する。

要素定番由来
トップスクリケットセーター、ポロシャツテニス・クリケットなど上流階級のスポーツ文化
アウターツイードジャケット、キャメルコート郊外の邸宅・狩猟文化を思わせる素材
ベージュ、ネイビー、白主張を避け、経年変化に強い色を選ぶ
小物パールのアクセサリー、レザーのローファー学生服・乗馬用品由来のディテール

代表ブランドを一言で並べる

ブランド一言でいうと
Ralph Laurenアメリカが夢見た「理想の上流階級」を服にしたブランド
Brunello Cucinelli1978年創業、貧しい家庭出身の創業者が掲げる「人間主義的な資本主義」
Loro Piana1924年創業、希少なヴィクーニャ素材を「王への贈り物」と呼ぶ毛織物の名門

Ralph Laurenについては当サイトで単体記事を用意している。

初めてオールドマネーを取り入れるときの3つの失敗

  • 新品でパリッと揃えすぎる: オールドマネーの前提は「代々受け継がれてきた」経年感。すべて真新しいと、かえって「取り繕っている」印象になる
  • ロゴを目立たせる: このジャンルの核は控えめさ。ブランドロゴが主張する服を選ぶと、狙いが正反対の方向に伝わってしまう
  • 色数を増やしすぎる: ベージュ・ネイビー・白の範囲を守らないと、単なる「きれいめコーデ」になり、オールドマネー特有の空気が薄れる

in the vault=ここだけの話

オールドマネーという言葉の一番おもしろいところは、それが実在しない過去への憧れだということだ。テニスやクリケット、乗馬といった記号は、実際には一部の限られた層の生活文化だった。それを誰でも真似できる形に翻訳し、誰でも買える価格帯の服に落とし込んだのが、このジャンルの正体だ。

つまりオールドマネーは、「本物の富」を服で表現しているのではなく、「本物の富がありそうに見える記号」を集めた衣装である。皮肉なのは、この言葉が広まれば広まるほど、本物の資産家たちはそこから距離を取ろうとすることだ。誰でも真似できるようになった瞬間、それは「上流階級らしさ」の記号としての価値を失っていく。憧れが広まるほど、憧れの対象自体が薄まっていくという矛盾を、オールドマネーは体現している。

まとめ

  • オールドマネーは実際の富裕層の服ではなく、「金持ちに見せたい人」のための衣装として2021年ごろTikTokで生まれた言葉。呼び名自体が憧れる側から生まれている
  • ジャッキー・ケネディや『ゴシップガール』が原型で、テニス・乗馬など上流階級のスポーツ文化に由来する記号(ツイード、キャメル、パール)で構成される
  • 2023年に広まった「クワイエット・ラグジュアリー」とは似て非なるもの。オールドマネーは「憧れる側」の言葉、クワイエット・ラグジュアリーは「実際に持つ側」の言葉という違いがある
  • 取り入れるコツは、新品感とロゴを避け、ベージュ・ネイビー・白の範囲で経年感を演出すること